読書感想文『日本の医療の不都合な真実』
こんにちは。まいまいです。
ブログを見に来てくださってありがとうございます。
本日は『日本の医療の不都合な真実』の読書感想文です。著者は森田洋之先生です。森田先生は内科医であるとともにプライマリ・ケア指導医をされています。このプライマリ・ケアについてはこの記事を読み終わる頃に「プライマリ・ケアとはこういうことか」と分かって頂けるようにしたいと思います。
森田先生は南日本ヘルスリサーチラボの代表をされています。公式Twitterがありますので、気になった方は覗いてみてください。
さて、本書の結論ですが、「高齢者は死ぬ。もっと言えば、人は死ぬという土台の上で人に寄り添った治療を選択して提供することが医療である。」とまとめられると思います。
わたし自身医療従事者でありますが、本書を読んで医療への向き合い方が540度変わりました。
コロナ関係の本でも読んでみようかなと、なんとなく手に取った一冊でしたが本当に読んでよかったと思っています。
医療従事者だけではなく、毎日繰り返されるコロナに関するニュースや報道に疲れた方々に是非読んで頂きたい一冊になっています。
※本書は2020年9月時点でのデータを基に執筆されていますので、現在のデータや状況と異なることがありますのでご了承ください。
病院のベッドが足りないわけではない
毎日コロナ関連の報道が絶えない日本ですが、感染者が増加するタイミングでかならずメディアで取り上げられるのが医療のひっ迫です。
特に病床が満床で受け入れられず、たらい回しにされる光景は誰もが何度も目にしたものでしょう。
では、日本の病床数はどうなっているのか見てみましょう。本書では医療をデータから俯瞰して見るべきとおっしゃっています。
日本には約160万の病床があります。これは人口あたりで見たとき、断トツで世界一の数字です。
ところが、実際新型コロナ感染対策病床として使用できた病床は全国で3万1000床しかありませんでした(2020年7月時点)。
この数字は日本国内の全病床の約1.9%にしかなりません。
これは感染症病床が日本の全病床の1%にも満たないことが原因です。
森田先生が住んでいる鹿児島県を例にとれば、県内に全部で約3万3000床あるうち、感染症病床はたったの45床でした。
では、なぜたらい回しにされるのか。その不都合な真実に迫っていきたいと思います。
厚生労働省や日本医師会などの組織が医療機関に対して、指揮・命令できると思われていますがそうではありません。
日本の病院の約7割は医療法人などによる【民営】です。
公立病院の数は民間病院の5分の1程度しかありません。
つまり、コロナの患者を受け入れてくだいさねと言っても、7割の病院に義務は生じ得ません。
大阪府と大阪市が市立病院という指揮命令系統を生かして、大阪市立十三市民病院を中等症コロナ患者専門病院化に踏み切った例もありますが、これは極めて稀です。
日本の病院のほとんどは民間であるために、コロナ患者受け入れによる経営の悪化を懸念し、協力できなかった(しなかった)というのが真実でしょう。
民間の病院すべてが悪いわけではありません。日本の医療体制自体にも問題があるのです。
日本の医療は【多売薄利】である
日本の病床数が世界一ということは先ほどお分かり頂けたと思いますが、病床数と平均寿命には関連性がないというデータがあります。
そしてさらに日本はCT、MRIの人口あたりの保有台数も世界一です。
国の立場からすると、増加する高齢者と医療費から診療報酬の引き下げは正論でしょう。
しかし、これは民間の病院からすると経営の悪化に繋がります。すると民間の病院はどうするのか。
空いているベッドを埋めようと必死になります。病名をつけて高齢者を入院させると儲かるからです。
肺炎などと病名をつけて、CTやMRI検査をすれば儲かります。
また、受診する回数を増やしたり、風邪など軽い症状でもたくさんの数の薬を処方するのは儲かるからです。
もちろん表向きには「患者さんのため。治療のため。」が言い分でしょうが、背景には年々下がる診療報酬による経営の悪化があります。
そこに追い打ちをかけるように、新型コロナウイルスがやってきました。
コロナの患者を受け入れて病院が儲かるのであればそうする病院も多かったのかもしれませんが、実際そうではありません。
多くのスタッフや設備を投入しないといけません。
コロナの患者が入院していれば、感染を恐れて外来の患者が減ることだって考えられます。
今回のコロナ騒動は、民間病院、もっと言えば日本の医療体制が引き起こした側面もあるということです。
ウイルスと共存していかなければならないという現実
昭和初期までの死因は結核・肺炎・胃腸炎などの感染症が大半でした。
しかし、抗生剤が登場し、衛生環境も整った現代ではこれらで命を落とす人はほとんどいなくなりました。
これらは「治すことのできる病気」だからです。
昭和中期以降、代わりに死因の上位を占めるようになったのは悪性新生物(がん)・心疾患・脳血管疾患です。
これらはたとえ現在の最先端医学の力をもってしても「完全には治らない病気」「長くつき合っていくべき病気」「加齢に伴って自然に増えてしまう病気」です。
人間の死亡率は100%です。
新型コロナウイルスによる肺炎だけでなく、インフルエンザでも普通の肺炎でも、がんでも心筋梗塞でも原因は無数にありますが人は死にます。
冬に流行するインフルエンザでは毎日100人ほど、年間で最大約1万人の日本人が死んでいます。
交通事故4000人、自殺で2万人の日本人が毎年死んでいます。
新型コロナウイルスでは感染者は160万人を超え、死者は2万人近くになっています。
しかし、感染者の8割は無症状もしくは軽症です。感染者数は減ってきていますが、終息の模様はありません。
死亡者の大半は高齢者や基礎疾患のある人たちです。
森田先生は「高齢者は死ぬ。より正確に言うならば人は死ぬ」ということをおっしゃられています。
これはインフルエンザだけでなく、がん、心疾患、脳血管疾患など様々な病気で亡くなる人を見てきた医師だからこそ見ることのできる世界でしょう。
しかし、リスクゼロを追求するべきではありません。
転倒して骨折する可能性がある高齢者をベッドに寝かせ、柵が張られている。
高齢になると飲み込む力が衰えるので、誤嚥性肺炎にならないよう鼻から胃袋まで管を入れたり、胃ろう造設される。
これらのリスクゼロを追求した姿が、本来の医療のあるべき姿なのでしょうか。
高齢者がますます増える現代の医療では「治す」だけでなく、必ず死にゆく人々の生活を肉体的だけでなく、精神的にも社会的にも最後まで「支える」「寄り添う」ことが必要になってきます。
以上、『日本の医療の不都合な真実』についての記事でした。
本書を読んで、本当に良かったと思いました。コロナ渦でこの先、医療はどうなっていくのか不安でしたが、寄り添う医療(プライマリ・ケア)の大切さを再認識させて頂きました。
森田先生がおわりに書かれている「あなたの人生に関わらせていただけて本当に嬉しかったです。ありがとうございました。」という文章を見て、わたしも医療というツールで人の人生に携わっているという実感が湧きました。
コロナウイルス感染症の終わりはまだ見えませんが、そんな中でもより良い人生にするために毎日をしっかりと生きていきたいですね。
本日もお読み頂いてわたしの幸せがひとつ増えました。
コメントお待ちしております。